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体験に基づいたSM(ソフト)の官能小説と雑記
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「――父性…なのかな」

可奈はポツリとつぶやいた。

「ん?」

「私が求めているものって、甘えられるよりも甘えさせてくれる人? ……ううん。…それは違うな…」

自分の中の誰かに話しかけるように、可奈は話を続けた。

「彼は今のままでいいの。あのままの彼が好きなのだから…優しくて、自慢できる彼が…。もし彼が、そうでなくなったら、私はきっと、好きではいられなくなる…でも…彼はとてもピュア…というか、本当にサラサラしてて…」

「さらさら?」

「そう、血液さらさら」

「どういう事?」

「私はドロドロしてる、血液ドッロドロ。彼はサッラサラ」

可奈はそう言った後、意味深な笑みを浮かべた。

「彼は真面目な人間で、可奈は不真面目な人間だってこと?」

「ちょっと違うけど、そういう感じ…かな」

「それは彼氏を舐めすぎだ」

「そうかな~」

可奈が口を尖らせて私を見た。

「彼氏だって可奈と同じように、考えているかもよ」

「別の女にドロドロを求めてるかもしれないってこと? それはない。絶対」

「可奈だって、彼氏の前で彼にふさわしいイイ女を演じているんだろ?」

「うん。こう見えても私、彼の友達にも、ご両親にも結構評判いいんだ」

可奈は嬉しそうに言った。クールな女性を演じている職場では見たこともない、屈託のない、子どもっぽい表情をしている。

「そうか。それはすごいね」

「私の両親だって、彼のこと本当に気に入っちゃって」

「公認なんだ」

「うん。結婚したいし、若いうちに子どもも欲しい。あと、私――」

可奈が少し顔を近づけた。内緒話をするように、小声になる。

「彼との子どもなら、すっごく出来のいい、カワイイ子が産まれるんじゃないかって思ってるの」

「策略家だね。そんなに幸せなのに、物足りない?」

「んー」

可奈は表情を曇らせた。

「物足りないという言葉は、合っているようで合っていないのかもしれない…。なんていうか、今の私が自慢できる事って、要は世間の価値観なの。人が良いって言ってくれるもの、人が羨むもの…分かりやすいもの、形としてあるもの…それは私にとって必要で、無くしたくない…。今の世の中で生きていく為に必要だって分かっているの。でも、それは私が求めているものとは違う…というか…」

「可奈は何を求めてるの?」

「ドロドロでも許される場所…かな」

「ドロドロ…か。サラサラの自分を演じなくて済む場所ってことかな」

「うん。――いい人じゃなくても許されて、出来が悪くても、意地悪でも、性格悪くても許してもらえる場所――。悪口を言っても顰蹙を買わない場所――。…回りに気を使って、謙遜しないでいい場所――」

言葉を重ねるたび、可奈の表情が生き生きとしてくるのが分かった。自分の醜い部分を見つめ、それを一つ一つ確かめ誠実に言葉として吐き出す度、彼女の顔が明るく、魅了的になってゆく。

可奈にとっての告白は、自分の立ち位置を見つけ、新しい名や役割に似た何かを得るための儀式のように見えた。

「じゃあ、ドロドロとした部分を俺にもっと見せてもらおうかな」

私が可奈の顔と体を舐めるように見ると、可奈は私の目をじっと見つめ、含み笑いをした。

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